小学生の頃、全校集会で体育館に並んでいたときのこと。
横に立っている先生たちをじっと見ていると、
最初はピンと背筋を伸ばしていたのに、
しばらくすると、みんながメトロノームのように
小さく身体を揺らし始めるんです。
左右に体重を移したり、片足に重心をかけ直したり。
「動いちゃいけない」と思っているはずなのに、
身体は自然と動いてしまう。
でも、これは不真面目なわけではなく、
身体が自分を整えようとする自然な反応です。
人の身体は、ずっと同じ姿勢を保つことが苦手。
筋肉や血流、神経の働きを安定させるために、
じっとしているようでいて、常に微細に動き続けています。
足を組むのも“整える動き”のひとつ
「足を組むのは姿勢が悪い」と言われることがあります。
けれども実際には、身体が一方向にかかる負担を感じ取って、
それを変えようとしている可能性もあります。
長く座っていると、骨盤や太もも、お尻などに圧が集中し、
血流が滞りやすくなります。
足を組むことで骨盤の角度や重心の位置が変わり、
負担がかかっていた部分の圧を一時的に軽減したり、
血流が行きにくくなっていた場所に流れをつくる。
つまり足を組むという行為は、
身体が無意識に「今のままだと偏りが大きい」と感じて、
姿勢を変えて負担を分散させている動きなんです。
「骨盤が歪む」は本当?
「足を組むと骨盤が歪む」とよく言われます。
確かに、長時間同じ方向で足を組み続ければ、
一部の筋肉に偏った負担がかかることはあります。
でもそれは「足を組むから歪む」というよりも、
動かずに固定された状態が続くことが問題なのです。
身体は本来、
動きながらバランスを取り続ける構造をしています。
むしろ小さく姿勢を変えたり、重心をずらすことで、
血流や神経の働きが保たれています。
つまり、「足を組む=骨盤を歪ませる悪い習慣」ではなく、
一方向の負担を逃がすための自然な調整として
とらえるほうが現実に近いのです。
姿勢を変えると、体幹の緊張がゆるむ
ある研究では、脚を組んだ座位で腹斜筋の活動が下がることが報告されています。
腹斜筋は体幹を支える重要な筋肉。
この筋の活動が落ちるということは、
それに連動する起立筋・腸腰筋・腹横筋・骨盤底筋なども
同じように力をゆるめている可能性があります。
こうした「筋肉のトーン(=基礎的な筋の緊張度)」が下がることで、
負担が集中していた部位の圧が抜け、
血流の通り道が一時的に広がります。
つまり、足を組むことで“緊張をゆるめる”というよりも、
姿勢を変えることで身体全体の負担を分散し、
血液の流れを保とうとしているのです。
組みやすい足の違いにも意味がある
人によって、右足を上に組む人・左足を上に組む人がいます。
これは単なるクセではなく、
左右の筋緊張の偏りが関係していることがあります。
たとえば、普段から殿部やハムストリング(太ももの裏側)の筋緊張が
右に比べて左が強い人がいたとします。
その状態では、右足を上にして足を組んだほうが骨盤が安定しやすく、
反対に左足を上に乗せたときは詰まりを感じやすいことがあります。
ただし、こうした左右差の原因は、
必ずしもその筋肉自体にあるとは限りません。
たとえば、一例として——
右足首を過去に捻挫していた人が、
右脚全体の筋膜が引っ張られて右脚全体の筋緊張が高まることがあります。
そのとき身体は、全体のバランスを取るために左のお尻の筋肉を少し緊張させて
バランスを保とうとします。
このように、左のお尻の筋緊張の原因が右側にあったり、
さらにはお尻ではなく足といった遠隔の部位にあるケースも少なくありません。
実際、私の友人もそうでした。
元々昔から左脚を上に組むと違和感があったそうですが、
施術で右足首を調整したところ
左右どちらで組んでもほとんど差がなくなったそうです。
このように、足を組んだときに左右差を感じる人は、
身体のどこかに小さな偏りや問題が潜んでいる可能性があります。
そして身体は、その偏りを補うために、
あえて左右差をつくり出しながら全体のバランスを保っているのです。
動かないことが一番の負担
身体はとても賢くて、
負担がかかっていると「痛み」や「違和感」として知らせてくれます。
だから、腰が痛くなるような姿勢や、
同じ姿勢を長時間続けることは避けたほうがいい。
デスクワークの人なら、
1時間に1回くらいは立って歩く。
それだけでも血流が回復し、
頭もスッキリします。
足を組む・組み替える・立ち上がる
——こうした小さな動きは、
すべて身体が自分を守るためにしている“調整”なんです。
おわりに
足を組むのは、行儀の問題ではなく、
身体が自分を守るためにしている小さな調整。
長く同じ姿勢でいれば、
どこかに圧がかかり、どこかの流れが滞ります。
だから身体は、ほんの少し姿勢を変えながら、
負担を分散しようとしているのです。
足を組むのも、そんな自然な工夫のひとつ。
組み方の左右差に気づいたら、
その奥にある身体の声に耳を傾けてみてください。
「崩れている」のではなく、
より楽に生きようとする身体の工夫かもしれません。

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