先日、ご紹介で初めて施術を受けに来られた20代の男性がいました。
小学校5年生のとき、交通事故に遭われた方です。
自転車に乗っていたところに、トラックが真横からブレーキなしで突っ込み、
そのまま電柱に激突しました。
右手首は複雑骨折。
左手の指には破片が刺さって貫通。
さらに頭部を強打し、頭からは大量の出血があったそうです。
病院に運ばれ、なんとか一命は取り留めましたが、
その後1ヶ月ほどは、ほぼ寝たきりの状態だったといいます。
医師からは、
「この状態で後遺症が残らなかったのは奇跡だよ」
そう言われたそうです。
検査でも脳に異常はなく、
日常生活も問題なく送れる。
事故後、病院での治療がひと段落してからは、
リハビリにも取り組んでいたそうです。
日常生活に大きな支障が出るほどではなく、
検査でも「異常なし」と言われていました。
それでも、カウンセリングの中で、
彼はこう話してくれました。
「事故の前と、体の使い方が全然違うんです」
事故のあと、静かに変わっていった身体
事故の前、彼は運動神経が良く、
跳び箱や縄跳びも得意な子どもだったそうです。
ところが事故以降、
- 跳び箱や縄跳びがほとんどできなくなった
- 体力測定のボール投げは3mほど
- 手を使う動作が苦手になった
といった変化が出てきました。
見た目には大きな問題はない。
生活もできている。
だからこそ、
「仕方がない」
「もうこういう体なんだ」
と、どこかで折り合いをつけてきたのかもしれません。
ただ、本人がいちばん強く感じていた変化は、
握力が戻らなかったことでした。
実際に施術前、10kgのダンベルを握ってもらいましたが、
右手でも左手でも、片手では持つことができませんでした。
手首だけの問題ではないと感じた理由
事故の話を聞いたとき、
最初に思い浮かんだのは、右手首の複雑骨折の影響でした。
ただ、ダンベルは左右どちらの手でも握れない。
これは、手首だけの問題では説明がつきません。
全身を検査していくと、
- 左右ともに手首がかなり硬い
- 少し触れたり、動かそうとしただけで強く反応する感覚過敏
といった特徴が見えてきました。
感覚過敏が強い状態というのは、
外からの刺激に適応する余裕がなくなっている状態だと、僕は考えています。
余裕があるとき、身体は刺激を受け止め、処理できます。
多少触れられても、大きな問題にはなりません。
しかし余裕がなくなると、
刺激が入る前に過剰に反応することで、
「これ以上は危険だ」とブレーキをかけます。
花粉症を例にすると、分かりやすいかもしれません。
体内で処理しきれないと判断すると、
免疫システムを過剰に働かせて、
くしゃみや鼻水で外に出そうとします。
彼の身体も同じで、
触れられること、動かされること自体に、
事前に強く反応する状態になっていました。
左右差から見えてきた、頭の中の状態
さらに注意深く観察すると、
身体の使われ方に左右差があることが分かってきました。
詳しく触診していくと、
右前頭骨(おでこの右側)の内側で、
膜の動きが明らかに悪くなっていました。
脳は、血液によって運ばれるブドウ糖をエネルギー源として働いています。
その血液は、心臓から首の動脈を通り、いくつかのルートで脳に供給されます。
脳は、頭蓋骨の内側で、複数の膜に包まれています。
血管や神経は、その膜を貫いて脳とつながっています。
そして、この膜は、全身の膜組織とも連続しています。
この部分の動きが悪くなると、
運動や感覚の処理が、微妙にうまくいかなくなることがあります。
もちろん、
脳の病気や明確な損傷がある、という話ではありません。
検査では「異常なし」と言われるレベルで、
普通に生活もできる。
ただ、
検査では拾われないほど小さな機能のズレが、
身体の使いづらさとして残ることは、実際によくあります。
施術で起きた、はっきりとした変化
施術では、
- 右前頭骨内の膜の調整
- 右手首の複雑骨折部位の調整
この2点を行いました。
頭蓋骨の調整が終わった直後、
それまで身体に入っていた無意識の緊張が、ふっと抜けました。
彼は驚いた表情で、こう言いました。
「すごい……握力が戻ってきた感じがします」
再度10kgのダンベルを握ってもらうと、
右手でも左手でも、しっかりと握ることができました。
さらに、最初はまったく無理だったのに、
左手でダンベルを頭の上まで持ち上げることができました。
「事故以来、こんなに握力が戻ったのは初めてです」
その言葉が、とても印象に残っています。
「痛くて続けられなかった整体」
後で聞いた話ですが、
彼は過去に一度だけ、別の整体を受けたことがあるそうです。
ただ、感覚過敏が強く、
触れられるだけで痛みが出て叫んでしまい、
途中で施術をやめざるを得なかったといいます。
今回の施術について、
後日アンケートにこう書いてくれました。
「すごくソフトに施術してくれて、痛みはまったくありませんでした」
感覚過敏がある方ほど、
強い刺激は逆効果になることがあります。
身体が必要としているのは、
力ではなく、安全だと感じられる刺激なのだと思います。
何も言っていないのに、言い当てられたこと
アンケートには、こんな言葉もありました。
「何も言っていないのに、
体を少し触られただけで、
自分の体の状態を言い当てられて驚きました」
昔、医者に言われた手首の後遺症や、
立っているときの左右差など、
普段はあまり意識していなかったことばかりだったそうです。
人は、不調が長く続くと、
それを「当たり前」として処理してしまいます。
痛みが強くなければ、
日常生活に支障がなければ、
わざわざ意識しなくなる。
けれど、意識していないだけで、
左右差があったり、
うまく機能していない部分が残っていることは、実はよくあります。
原因に触れると、力は自然に戻る
力が入らないという状態は、
単純に筋力が足りないから起きているとは限りません。
実際、
どれだけリハビリを頑張っても、
どれだけトレーニングをしても、
なかなか力が戻らないケースがあります。
そうした場合、
問題は「力を出すこと」そのものではなく、
身体のどこかに残っている原因にあることが少なくありません。
身体は、
問題のある部分をかばうために、
全体のバランスとして、
あえて力を出しにくい状態を選んでいることがあります。
原因となっている箇所を見つけ、
そこを調整してあげることで、
身体は無理をしなくても、
自然と力を取り戻していきます。
今回のケースは、
まさにそれを実感させてくれた症例でした。

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