前回の記事では、人の身体にはいくつものセーフティーネットが備わっており、
内臓を切除しても生きられる理由を説明しました。
この考え方は、内臓だけでなく、筋肉や骨格のまわりにも存在します。
その中心にあるのが「筋膜」です。
筋膜という言葉に、どんな誤解があるのか?
最近は筋膜リリースという言葉が広まり、筋膜を「筋肉を包んでいる膜?」というイメージで捉えている人が多いと思います。
しかし実際の筋膜は、筋肉の表面だけの膜ではありません。
皮膚のすぐ下の膜、脂肪の中に入り込む膜、筋肉同士を仕切る膜、血管や神経を包む膜、内臓を包む膜、さらに脳や脊髄を包む膜(硬膜・くも膜・軟膜)まで含まれます。
筋膜とは、身体を包み、仕切り、つないでいる立体的な膜のネットワークです。
解剖でわかった:身体は層ではなくつながりでできている
数年前、ハワイで解剖実習に参加しました。
それまで私は、皮膚 → 脂肪 → 浅筋膜 → 深筋膜 → 筋肉 → 骨
という“きれいに分かれた層構造”を思い描いていました。
しかし実際にご検体にメスを入れてみると、そのイメージはすぐに崩れました。
脂肪と筋膜の境界も、浅筋膜と深筋膜の境目も、教科書のように線で区切れるものではありません。筋肉の周囲にある白く薄い繊維は、横にも縦にも斜めにも伸び、すべてが滑らかにつながり合っていました。
身体は積み木のようにパーツが重なっているのではなく、立体的に編まれたひとつの連続体として存在している。
その事実を強く実感した瞬間でした。
全身タイツのように連続して動く
筋膜は、筋肉を横に結ぶだけではありません。
皮膚のすぐ下から深層の筋膜、筋肉、骨膜、内臓の膜、そして脳を包む膜まで、立体的に連続して存在しています。
その広がりは、あたかも身体にぴったりと張りついた“全身タイツ”のようです。
どこか一部分が引きつれれば、その周りの布まで一緒に動いていく。
筋膜はまさに、動くたびに形を変える生きた布のような存在です。
筋膜は水を多く含むハイドロゲル
筋膜は60〜80%が水でできています。
水分が多いと柔らかく滑らかに動き、
水分が減ると粘性が増して硬くなる。
寒天やゼリーのように、水分量によって質感が変わる組織です。
だからこそ、一部分だけが硬くなると、そこに張力が集まり、周囲へ影響が広がります。
一箇所が硬くなると、別の場所があえて硬くなる仕組み
筋膜の一部分が硬くなると、その一点に張力が集まり、身体全体のバランスが崩れ始めます。
そのままでは立ち姿勢や歩行が不安定になるため、身体は倒れないように補おうとします。
そのとき働くのが、周囲や反対側の筋肉が“あえて硬くなる”という補償反応です。
私たちが意識するより前に、身体は一瞬でこの調整を行っています。
テントの構造と同じ
この仕組みは、テントのロープを思い浮かべるとわかりやすいです。
テントのロープを一箇所だけ強く引っ張ると、布全体がよれて傾きます。
倒れないように、反対側のロープがぐっと強く張って補います。
身体でも同じことが起きています。
筋膜の一部分に張力の偏りが生まれると、周囲や反対側の筋肉が自然と強く働き、全体のバランスを保とうとするのです。
これは意識ではなく、身体が瞬時に行っている自動調整です。
まとめ
筋膜は筋肉の膜というよりも、身体全体を包む立体的なネットワークです。
皮膚から脳まで続くつながりを持ち、一箇所が硬くなると別の場所が補い、その結果として全体の姿勢や動きが作られています。
身体を壊れにくくするための、構造的なセーフティーネットとしての役割を担っています。

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